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黒豆海苔巻

主に北海道で散歩してるブログ

「絶滅動物化石の最新研究 in 2016」に行ってきた

セミナー

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 2年ごとに開かれている北海道大学のシンポジウムを聞きに行った。今年で4回目となるそうで、今回は13人のプレゼンターが6つのテーマについて発表を行なった。主催は北海道大学総合博物館。北海道大学にて研究を行う教員・学生による発表を中心に、外部からの演者(カリー!)を挟み込む構成だ。恐竜博2016の開催目前、今をときめく小林快次の登壇もあってか注目度は高いようで、聴講者は多く、取材も入っていた。

 

化石の三次元計測と変形復元 越前谷宏紀

 化石の三次元計測の目的は、記録・持ち運び・解析・加工にある。これまでは高額・使い勝手の悪い計測手法が用いられてきたが、デジカメで対象を複数の角度から撮影し、その画像から三次元モデルを作成するSfMという手法が広まっているそうだ。場所も対象のサイズも選ばずに計測できるのは大きな強みだ。足跡や、産地の露頭までデータ化し持ち帰ることができる。また、この三次元データを使えば、圧密変形した化石生物の本来の姿も再現できうるということだ。あらゆる標本が三次元計測され、共有されれば、形態比較の研究はこれまでにないスピードで進むんじゃないだろうか。

 

2015年度モンゴル・フルンドッホにおける発掘調査 榊山匠

 モンゴルでの調査風景を通じ、化石調査がどのように進められるのかが紹介された。果てなく広がる荒野の写真を見ると、こんなところで化石発見なんて無理だろう…という気分になる。地質に炭化物を含むかどうか、かつての川の流れがどうなっていたかということからあたりをつけるそうだが、気が遠くなりそうだ。化石学者のフィールドワーク能力には脱帽である。

 

古生代後のイカ類(頭足類)の最新研究 Dirk Fuchs

 現生のイカとタコはどのように分岐してきたのか。2006年当時は、3億年前にベレムナイト類からイカとタコが発生したと考えられていた。しかし、それを覆すような中生代の軟体類の完全化石が複数発見されてきている。この化石(外套膜側から地面に突っ込んで死んだ化石まであるとか)があまりに綺麗に形をとどめているのには驚いた。これらの化石は細長い外套膜とそれを支えるペンを持ち、イカのような姿なのだが、足の数はなんと8本なのである。これらの化石から、10本足ベレムナイトから8本足イカ型頭足類が2億3千万年前に分岐、この8本足イカ型頭足類から現生のタコが発生したのではないかと考えられるようになった。10本足の方も別で分岐を重ね、1億年前に現生のイカが現れることになったようだ。なぜ人間は頭足類に惹きつけられるのかというイントロダクションも面白かった。

 

アメリカ・ユタ州の中部白亜系シダー・マウンテン層産の巣穴化石 吉田純輝

 北米の白亜系では2例目となる2つの巣穴化石についての分析。現生種の巣穴も含めてクラスター分析をすることで、どのような動物が巣穴を作りどのように利用していたか、その類似度から推測しようというもの。巣穴の一つは、現生種ではトビネズミが作るものに最も似ているとのことで、白亜紀当時に同様の体サイズ、ニッチを占めていた種がこの巣穴を利用していたと考えられるのだろうか。生体化石の形態からも穴掘りをしていたかどうかを推測できうるとのことで、これと合わせることで当時の動物の行動を知ることができるかもしれない。

 

日本のワニ類とその起源 飯島正

 鮮新世更新世の日本には、マチカネワニとヨウスコウワニの2種類のワニが生息しており、これらのワニがどのように日本に入ってきたかの紹介。ヒントは化石の発掘場所とワニの塩耐性。マチカネワニの仲間は日本列島形成前の地層から見つかっていることからかなり古くから日本にいた可能性があるが、塩耐性を持っていたと考えられるため海を渡って大陸から入ってきた可能性もある。一方ヨウスコウワニは塩耐性がないため、比較的温暖で日本と大陸が陸続きだった時期に入ってきたと考えられる。ヨウスコウワニはその後の寒冷化時に海を渡って逃れることができず、日本では絶滅したと考えられるとのこと。

 

胃石から探る主竜類の食性 高崎竜司

 ワニ・鳥・恐竜からなる主竜類は、食性に関わらず胃石を持つ。消化するものによって胃石の摩耗の状態は異なるはずで、現生種の胃石を食性ごとに分類し、そこに化石の胃石を当てはめれば当時の食性を推定できるのではないかという面白い内容。シノオルニトミムスの胃石は円形度が高く現生の植物食性鳥類に近く、タルボサウルスの胃石は円形度が低く現生の肉食性主竜類に近かったとのこと。これは骨の特徴から推定された食性とも一致する。成長段階ごとの食性の変化も反映しうるかという質疑応答も興味深かった。

 

成長様式から考察する鎧竜恐竜の生態と進化 林昭次

 貴重な化石も物理的にぶった切る研究者としてナショジオでも紹介された方の発表。アンキロサウルス類で有名な鎧竜は、実は完全化石が少なく、どのように鎧や棍棒を成長させているのかという成長様式の研究は進んでいなかった。近年、モンゴルで22個体もの鎧竜の綺麗な化石が一度に見つかったので、早速ぶった切ってみたという内容。なぜ骨を切るのかというと、その断面から年齢、成長速度、骨代謝の様子を読み取ることができるからだ。ここからわかったのは、幼体はまず体を大きくすることを優先してカルシウムを消費して成長するが、ある程度大きくなり鎧の形成を始めるとそちらを優先し、幼体であっても体サイズの成長が緩やかになるとのこと。この鎧形成のために、成長させてきた骨格内のカルシウムを溶かして使用していたようだ。他の恐竜は急激に成長し短期間で生体になるが、鎧竜はそうではなかった。鎧があることで、体サイズが大きくなくても身を守ることができたからだと推測されている。プレゼンがとても上手なこともあり、面白かった。

 

モンゴルのダチョウ恐竜&新たな発見 Chinzorig Tsogtbaatar

 オルニトミムス類というダチョウのような格好の恐竜に着目する。かつてアジアと北米では恐竜の行き来があり、モンゴルと北米ではそれぞれ共通する恐竜相を持つ。しかし白亜紀カンパニア期に関しては、オルニトミムス類だけがモンゴルでは見つかっていなかった。今回、そのカンパニア期のオルニトミムス類がモンゴルで見つかった。見つかった種は、形態からオルニトミムス類の基盤的な種であり、また他の時代にモンゴルに生息したオルニトミムス類と異なり乾燥環境に生息したことが示唆された。化石の発見、種判別、記載という研究の流れがよく分かる発表だった。分類のための骨の計測は本当に大変だ。

 

モンゴルの上部白亜系バヤンシレ層から発見された二指性のテリジノサウルス類 小林快次

 テリジノサウルスは、異様に長い爪を持つことで有名な3本指の恐竜だ。今回見つかったテリジノサウルス類恐竜は、第3中手骨が退縮し2本指になっていた。2本指の恐竜といえばティラノサウルス類で、およそ世界で2例目の2本指恐竜とのことだ。この恐竜の前肢はほぼ完全かつ良好な状態で、爪のケラチン質まですべて残っていた。また、指の可動域は非常に狭いこと、前肢に生える羽根は短かっただろうことまで骨の観察から推定がなされていた。なぜ2本指になったのかが興味深いが、よくわかってはいない(食性が違っていたのでは、とは仰っていたが)。化石からわかることは何か、体の一部分だけの化石であっても示唆されることは数多くあることがわかる発表であった。

 

カナダから発見された非常に保存の良い獣脚類サウロルニトレステス Philip Currie

 ジュラッシック・パークに出てくるグラント博士のモデルの一人が彼だ。直近で北海道大学の特任教授として3ヶ月を過ごしていたことには驚いた。さて、サウロルニトレステスは、1978年にカナダのアルバート州立恐竜公園にて2番目に見つかったドロマエオサウルス類だ。これまで部分的に化石が見つかっていたこの種だが、2014年、ついにほぼ全身揃った化石が発掘された。鎖骨があり胸骨が骨化し繋がっているなど、鳥類に近い特徴を持ち、また他のドロマエオサウルス類より頭骨の空洞が多いなどといった特徴を観察することができた。しかし困ったのが歯である。サウロルニトレステスの歯は、1876年に歯に基づき分類されたザプサリスと同じ形態だったのである。命名規約には先取権があるため、学名を再検討する必要があるのだが、果たして…。

 

地球最古の潜水鳥類 田中公教

 現代の潜水鳥類といえば、カツオドリやペンギンだが、鳥はいつから潜水を始めたのだろう。恐竜時代にもヘスペロルニス類という潜水鳥類が北米を中心に生息していたが、白亜紀末に非鳥類型恐竜とともに絶滅してしまった。ヘスペロルニス類の特徴は、その発達した後肢だ。カツオドリやペンギンが前肢で泳ぐのに対し、ヘスペロルニス類の前肢は極端に縮小、代わりに後肢を使い遊泳していたと考えられる。時代とともに後肢の形は変化し、当初はカモの水かきみたいな蹼足が、バンのような弁足になっていった。これは遊泳時のエネルギー効率を上げ、大型捕食者からの逃避にも有利となったとのことだ。なぜ飛ぶのをやめて潜水化する道を選んだのか、カナダから見つかった移行期の化石がヒントになりそうだ、という内容。

 

ヒゲクジラの体の大きさの進化 蔡政修

 シロナガスクジラに代表されるように、どのような過程でヒゲクジラは大型化したのか。これまで、最古のヒゲクジラで体長8〜9mと、そもそも最初から大きかったのだと言われていた。しかし近年になり、古くてかつ小さな種の化石も発見されており、大型化はいくつかの系統で並行して生じたのではないかとも考えられる。系統発生の考え方も取り入れ、現生種の幼体・成体を別種と捉えて、化石種を含めて系統解析を行なってみているという。

 

北海道沼田町の最新鯨類研究 田中嘉寛

 沼田町は水生哺乳類の化石の宝庫だ。ほぼ完全化石で見つかったヌマタネズミイルカが有名であるが、これまでの30年間はその1標本しか知られていなかった。今年度、貯蔵庫から新たに2標本を発見した(耳骨と頭骨の一部)という。こうして眠っていたものに新しく価値が見出されていくのも面白い部分だ。