黒豆海苔巻

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恐竜のはなしを聞いてきた

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 先日、日本鳥学会の2016年度大会にあわせ開かれた公開シンポジウム『恐竜学者の鳥のはなしと鳥類学者の恐竜のはなし』に行ってきました。会場となったホールは600人強を収容できるそうですが、ほぼほぼ埋まる盛況ぶりです。

 まずは北大総合博物館の江田真毅さんによる、現生鳥類は恐竜の1系統であるというイントロダクション的な話。今現在生息している鳥たちは、進化の過程でいわゆる恐竜の仲間から分岐して生まれたため、分類学上は「鳥は恐竜である」というわけです。鳥の学会が、(絶滅した非鳥類型恐竜を主に扱う)恐竜学者を招いた理由はここにあるのです。現生鳥類での研究成果と絶滅した恐竜での研究成果とが、互いにどのように貢献しあっているのかを、続く講演者が紹介していくこととなります。

 恐竜学者であるカルガリー大学の田中康平さんが紹介したのは、卵の話。恐竜はワニの仲間との共通祖先から分岐しましたが、ワニが卵を産みっぱなしで放置する一方で、現生鳥類になると抱卵をします。では絶滅した恐竜は自身の卵をどう扱ったのか、というのがここでの疑問です。実は、現生において放置される卵と抱卵される卵とでは殻の構造に違いがあり、これを基準に卵の化石を観察すると、その卵が抱卵されていたか否かが分かるというのです。抱卵の有無は種によって異なり、生息場所の環境により卵の扱い方が多様であったようだという内容でした。現生鳥類の研究では行動観察をしてしまえば済むところを、化石に行動が反映されるような構造を見つけてからようやくその行動を推測できるようになる恐竜研究の難しさを感じます。

 続いては日本で最も多忙な恐竜学者と紹介された、北海道大学の小林快次さんによる話。まずは恐竜の食性の話で、恐竜化石の腹部からは餌の骨だけでなく、たくさんの石が見つかることがあるとのこと。胃中での働きを推定すると、どうやら現生鳥類の砂肝のように、食べ物の消化の補助のために使われていたと考えられるそうです。

 もう一つは羽毛、羽根についての話がありました。保温のために発生した羽毛が、ディスプレイのために発達して羽根となっていったと考えられているようです。前肢に生える羽根の大きさは、折りたたむ関係から関節の可動範囲と関係していると思われ、その仮説をもとにティラノサウルスの復元図を監修したと話がありました。

 小林さん発表の中で、恐竜がどうやって鳥になっていったのかという研究がどんどん進んでいる、という言葉は印象的でした。今いる鳥の姿・行動は、恐竜の時代から紡がれたものなのです。田中さんの発表のように、形態の変遷を追うだけでなく、現在見られる鳥の行動がいつどんな理由で生じたかまでを探っていくような研究の一端を知ることができ、大変わくわくさせられました。

 最後は森林総合研究所の鳥類学者・川上和人さん。著書である『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』の好評がこのシンポジウムに繋がったことは明らかでしょう。ご本人の語り口は、著書で見られるまま軽快で、非常に楽しいものでした。著書の一部を広げ、現生鳥類をもとに絶滅した恐竜の体色を推定、妄想するという発表でした。体色は少なからず習性と関わるものであるので、恐竜の行動が明らかになれば、川上さんのような考えで体色を推定して復元図を監修する意義も大きくなりそうです。

 最後は来場者の質問を受け付けてのパネルディスカッションでした。やはり恐竜に関する質問が多く、特に求愛など行動に関する質問が多かったです。恐竜の行動を考えるには、現生鳥類の研究が果たす役割が大きいだろうことはこのシンポジウムで感じられたはずです。恐竜に興味があるなら、鳥を見に行ってもいいかもしれません。

 最後は鳥類学者と恐竜学者が固く握手をして閉会となりました。