黒豆海苔巻

主に北海道で散歩してるブログ

黄色いパスポートとともに

 新潟に来た目的は、3年ごとに開かれている「大地の芸術祭」です。里山を舞台に、土地や空家、廃校を活用した作品が展開されます。変なものをたくさん見てやろうという魂胆です。

 作品が広く点在していることから、今回は珍しくしっかりルート計画を立てています。午後いっぱいめぐるこの日は、中里エリアを始点に南から東へ抜けるようなルートです。

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 まずは旧小学校を利用して作られた「越後妻有清津倉庫美術館 [SoKo] 」で鑑賞パスポートを入手。これで大手をふって全ての作品を見ることができます。

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 ここは磯辺行久の作品を保存・展示する場所でもあります。彼は20年の歴史を持つこの芸術祭の準備段階から関わり、作品を発表し続けているとのことです。並んだ越後妻有の地形図からは、景観そのものを作品にしようとしてきた意欲が感じられます。

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 館内で目を惹いたのは、チューブを走る水で備讃瀬戸の海流を描いた作品でした。この後訪れる彼の屋外作品もそうですが、土地・気象にある見えない流れを可視化しようとしているようです。

 

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 かわいらしい注意看板を横目に山道を登り、清津峡へと向かいます。混雑を避けようと昼時に来ましたが、駐車場待ちの車列が出来上がっていました。

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 なんとか清津峡トンネルに到着。清津峡は日本三大渓谷のひとつだそうで、天然記念物に指定されている場所です。柱状節理に囲まれた深い谷を安全に見るため、この歩行者専用のトンネルが作られたそうです。今回、このトンネルの見晴所に作品が作られました。

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 マ・ヤンソン / MAD アーキテクツによる『ライトケーブ』です。清津峡の景色が水鏡に反転し、幻想的な空間となります。暗く狭い道を800m近く歩いて来るため、ここでの視界の開けかた、光が押し寄せてくる感動はひとしおです。

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 あいにくこのタイミングで大雨となりましたが、おかげで幽玄といった雰囲気です。ずっと見ていられる、吸い込まれるような魅力のある場所となっています。いかんせん今年の大きな目玉スポットなので、ひっきりなしに人が訪れますが…。

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 先端から望む清津峡もすごい迫力です。かつて観光用に使われていた道も見えますが、そりゃ危ないでしょう、といった感じ。

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 途中にいくつかある見晴台も不思議な感じになっています。シェルターかと思ったらマジックミラーのトイレ、という飛び抜けた作品もあり面白いです。

IMG_8724 駐車場に戻ろうとすると晴れて来ました。もう少し天気が変わるのを待っててもよかったかな…。

 

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 さらに移動。内海昭子『たくさんの失われた窓のために』は清津川を望むような形で作られていますが、僕は集落を望むような方向で見るのが気に入りました。

 

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 津南エリアまで移動し、ダミアン・オルテガ『ワープクラウド』へ。星々のように浮かぶ白い玉ですが、その配列の妙で、どこから見ても必ず消失点があります。

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 これも吸い込まれるかのよう。見ていて飽きません。もともと繊維工場だった場所ということもあり、糸玉の連なりのようにも見えてきます。

 

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 磯辺行久『サイフォン導水のモニュメント』。まるで横たわる大蛇のよう。集落の地下を走る、水力発電用の暗渠が可視化されています。規模が大きく見応えたっぷり。

 

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 次第に天気は快晴に。次に向かった『最後の教室』がとてもよかった。

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 『最後の教室』は旧東川小学校全体を使った作品です。最初に入るのは真っ暗な体育館。たくさんの裸電球が吊り下げられているのですが、晴れ渡る空からの暗闇で、視界はほぼ奪われたままです。足元に敷き詰められた枯れ草の柔らかさと匂いだけを感じることができます。

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 電球をたどってそろそろと進むのですが、何度か人にぶつかります。

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 体育館を抜け教室棟に着くと幾分明るくなります。しかしこの裸電球のある場所は、温かみのある色合いなのに、その光の動きや、響き渡る鼓動の音でとても不安にさせられました。

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 こうした冷たい場所はむしろ安心感を覚えます。

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 奥まで行って、また同じルートを戻ります。再度体育館を訪れると、完全に目が慣れてすっかり全容を把握できるようになっています。行きはあんなに恐ろしかった場所が、帰りにはとても美しく感じられるように、がらりとその姿を変えたのがとても印象的でした。

 

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 まだまだ巡ります。空家を使った塩田千春『家の記憶』。

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 家の中いっぱいに黒い糸が張り巡らされています。まるで初めからそうであったかのような時間と凄みを感じ、圧倒される場所でした。

 

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 キョロロまで移動。新野洋『日月の江』のかっこよさよ。

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 里山科学館としても丁寧な工夫がたくさんあって、とてもいい場所でした。この引き出し、本当にワクワクさせられます。

 

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 最後は奴奈川キャンパスへ。彫り続けられてきた『大地のおくりもの』には、越後妻有で目にしてきた山や木々、いるであろう動物の姿であふれており、豊かな気持ちになります。

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 ここでは2017年に南極で開催されたビエンナーレの様子がミニチュアで再現されています。見ての通り、観客はほぼペンギン。

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 何かの手違いかと思いましたが、本当に全裸で突き刺さるパフォーマンスだったようです。

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 壮大なギャグのようでとても好きです。

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 傾いた日光が差し込み、暖かさがあふれて良い感じ。

 

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 最後は星峠の棚田を眺めました。こうした里山の景色の中を縫うように移動することも、この芸術祭の大きな魅力なのでしょう。

 この後、宿泊先の六日町にて温泉に浸かり、雪男の日本酒とともに夜は更けたのでした。