黒豆海苔巻

主に北海道で散歩してるブログ

STUなつやすみ 女木島・男木島・大島

IMG_1857

 旅の2日めは、朝一のフェリーで女木島へ。切符売り場にはすごく早い時間から行列ができていてびっくりしました。この日も快晴で気温が上がりましたが、昨日でそれなりに慣れたようで比較的余裕でした。

IMG_1870

 鬼ヶ島伝説で有名な女木島。『20世紀の回想』がポロンポロンとピアノの音色と共に迎えてくれます。

IMG_1871

 護岸に立ち並ぶ『カモメの駐車場』。そういえばこの旅行中、本物のカモメの姿はあまり見かけませんでした。ウの方が多い。北海道のカモメ密度が異常なのか…?

IMG_1873

 いろんなところに立ち入れるまで時間があるので、またも海でピチャピチャ涼みます。女木島は高松からもっとも手軽な海水浴場にあたるそうです。

IMG_3053

 海は綺麗だし、遠くに島々を眺めて泳ぐのは楽しかろう…。海の家で買った具の少なめな焼きそば(それがいい)をすすりながら羨望の眼差しを送るしかありません。

IMG_1902

 まずは『「島の中の小さなお店」プロジェクト』へ。レアンドロ・エルリッヒの『ランドリー』は人を食ったような作品でニヤリとします。島内にある『不在の存在』も気持ちよく騙されます。もはやトリックアート。

IMG_1901

 『的屋』でラッキーアイテムを選んでもらいました。セミの抜け殻がいいそうです。

 その横の『ピンポン・シー』では子供たちがハードモードの卓球に興じていました。人の集まる場所になっていて素敵。

IMG_1916

 印象的だった展示は『BONSAI deepening roots』。とにかくかっこいい盆栽がたくさんあります。

IMG_1917

IMG_1920

「根づく」がテーマなのも良い。

IMG_1908 展示には島にあった古い家が使われています。スタッフの方が「やはり家は人がいないといけない。芸術祭を通じて人が来るようになって、家が生き返ってきているように感じる」とおっしゃているのは印象的でした。

IMG_1947

 八幡神社の鳥居越しに海。できすぎた景色です。

IMG_1897

 女木島で面白いと思ったのは、瓦がコンクリであること。昨日の直島などとはまた違う文化なのだな。

IMG_1896

 休校中の小学校の壁に描かれた絵。瀬戸内のサワラは1990年代にその資源量を激減させましたが、その後の漁業者自身による漁獲規制などで、近年は回復傾向にあるようです。

IMG_1890

 その休校中の小学校を舞台にしたのが『女根/めこん』。所狭しと好き放題に猥雑です。入り口の木の根のかたち、今昔物語の蕪の話を思い出さずにいられませんでした。

IMG_1959

 古民家を使った『家船』もふざけ倒していて面白い。なにが「宇宙開発事業着手のため閉館」だよ(もちろん入れました)。

IMG_1962

 などと楽しみ、しかし鬼ヶ島らしいところは巡らぬまま、男木島へのフェリーに乗ります。20分ほどで男木島に到着。

IMG_2057

 男木島は傾斜に家々が立ち並んでいます。海賊からの防御を狙った集落づくりの結果とのこと。細い路地をうねうねと登りながら作品鑑賞をします。

IMG_1968

 と、その前に、ターミナルからは島の反対側にあたる海岸を目指し歩きます。だいたい片道15分もあればいい道すがら、やはりだんだん暑くなり、途中でコーラを補給しながら向かいます。

IMG_1974

 その途中にあった初見の乗り物にテンションが上がります。自動オンバと勝手に命名。これはかわいい。

IMG_1989

 そして島の反対側にあるのは『歩く方舟』。笠の部分が遠くの島々の山並みと同化しています。

IMG_2054

 そして集落に戻り、空家で展開される作品を巡ります。今回の芸術祭のメインイメージにもなっているタコを扱った『うちの海 うちの見』は幻想的で良かった。写真には写っていませんが、足元には水が張られており、うねり動くタコの映像がゆらゆらと反射して本物のようです。

IMG_3061

 一見普通の民家の『アキノリウム』。中で奏でられる音は軽やかでファンシーで、もののけ姫の木霊のごとくで綺麗。自分で竹のサウンドオブジェを作りたくなりました。

IMG_2012

 『SEA VINE −波打ち際にて−』は繊細な作品。家が侵略されていくかのような気持ち悪さもあります。ロケーションが良い。

IMG_2016

 廃屋にとめどなく水が落ちてくる『Tribe』。ただそれだけなのだけど、目が離せなくなる魅力がありました。

IMG_2035

 『記憶のボトル』は美しさ満点。封入された写真の中には、誰かのほんの些細な一瞬だったり、美しく輝く海が写っている。まーエモい。

IMG_2050

 カラフルな模様に沈みこめる『The Space Flower・Dance・Ring』も好き。

IMG_2028

 これ以外にも『部屋の中の部屋』や『生成するウォールドローイング』など、魅力的な作品にあふれています。男木島は私好みの作品が多く大満足です。

IMG_2053

 あと、これが本家の手動オンバ(乳母車)。台車界のSUVといった風情で力強い。

IMG_3066

 昼は「めおんバーガー」と「柚子スカッシュ」。海を見下ろし、脚を日に焼きながら食べる。

IMG_2059

 男木島のターミナルに戻り、大島行きの高速船を待ちながらかき氷を食べました。削りたてのかき氷、何年ぶりに食べるだろう…。シロップのぞんざいな甘さよ。

 

 

 島巡りの最後は大島です。芸術祭の情報を調べる中でどうしても行ってみたくなり、短い時間ですが訪れることにしました。

 大島には、国立ハンセン病療養施設のひとつである大島青松園があります。恥ずかしながらこれまでハンセン病への知識がほとんどなかったのですが、極めて感染力が弱いにも関わらず近年まで隔離施策が取られていたこと、外見上の変化があることから差別の対象となっていたこと、そうした差別から親族を守るために仮名を使わざるをえない人が多かったこと、すでに完治していても経済・社会基盤がないため療養所で暮らさざるをえないことなどを知り、衝撃を受けました。

IMG_2083

 大島には、いたるところにこうしたスピーカーが付けれらています。ハンセン病の後遺症として失明した方もおり、音楽によって今いる地区を教えています。これ以外にも、道路に引かれた白い誘導線など、この島が持つ特殊な機能を随所に目にします。

IMG_2079

 その大島も芸術祭の会場です。入所者の寮だった集合住宅を使い、作品展示が行われています。

IMG_2067

 『Nさんの人生・大島七十年 木製便器の部屋』は、一人の入所者の人生を追いながら、大島で起きていたことを伝える内容です。療養所は人手が足りず、患者であっても症状が軽度であれば様々な雑務にあたったそうです。この木製便器は、そうした雑務の象徴です。

IMG_2072

 生涯をハンセン病撲滅に捧げた光田健輔氏の肖像も。政策提言や病理学的発見で多くの功績を残すと同時に、強制隔離施策を推し進めた人物でもあります。患者に結婚は許しながらも妊娠中絶させるなど、強制隔離は人権侵害ともいえる内容でした。Nさんの体験した隔離施策の不条理が、サイケデリックな色彩で突きつけられる作品でした。Nさん自身の体験談は以下で観ることができます。

IMG_2074

 『稀有の触手』では、大島の「カメラ倶楽部」の最期のひとり・脇林さんを撮影した写真が並んでいました。「ここは世界の真ん中です。何処かへ撮影に行くことはない。大島を撮り続けますよ」という言葉には、静かな誇りも、哀しみも感じられます。

 『歩みきたりて』は、歌人・政石蒙の足跡を追う作品。彼の出身地の愛媛、大戦後の抑留中に発病したモンゴル、帰国後に入園した大島と、3つの場所を朗読とホーメイで結ぶ映像作品に引き込まれました。隔離施策のなか、たった数個の石ころで定められた境界線に縛られ続けた想いが、作品として、言葉として自在に行き交います。作家自身による、作品の序文ともいえる内容が以下で読めます。

 同じ作家による『海峡の歌』では、大島と対岸の庵治町とのあいだの海を泳いでわたる主観映像が展示されています。かつて大島から逃れるために患者が泳いだというその隔たりを追体験することができます。また、かつての逃避とは逆に、本作では庵治町から大島へと泳ぎます。「隔てる海」から「つなげる海」へ、というメッセージがすんなりと入ってきます。

IMG_2061

 ハンセン病療養院の入院者の平均年齢は80歳半ばといいます。大島も、そう遠くない未来には療養院の島ではなくなるでしょう。この島の、人の記憶をどう残して伝えるか。大島で芸術の果たす役割や期待の大きさが感じられました。政治と芸術をめぐる議論が活発ですが、それを介して社会の様々な側面に対するコミュニケーションが生まれることも芸術の価値だと思います。

 

IMG_3068

 そうしてまた高松に戻ってうどん。今回はコシがストロング系です。うまい。でも冷やだと出汁を充分味わいきれなかったのがやや失敗。

IMG_2087

IMG_2089

 北浜の作品や、香川県ミュージアム『祭礼百態』など、遅くまで開場している展示を回りました。

IMG_2097

 夜は花火大会!のはずだったのですが、強風のため中止。そんなわけで駆け足の旅行は終わったのでした。