あまり眠れない夜、1時ごろに目を覚ます。トイレついでに外に出ると、どうやら晴れ渡っている様子だ。満月近くなので満天の星とは言えないが、星々はまたたき、月明かりで立山の山容が浮かび上がっていた。いい天気になりそうだぞと思いながら、震えて布団に潜る。
4時過ぎ、日の出近くに準備して外へ出ると、期待通り晴れ渡っている。太陽はまだ東側の山々に隠れているが、ぼんやりと明るくなる様が美しい。
下界の方には雲海が見える。
立山室堂山荘の方に歩くと、カヤクグリが群れをなして盛んに囀っている。
ライチョウのオス2羽がおり、対面で鳴きあって縄張りを主張している。足輪をしている個体だ。
ころころになるライチョウ。5月末とはいえやはり寒く、水たまりや、昨夜は青い水をたたえていたみくりが池の表面は凍っている。
ケンカは至る所で見られる。しかし結局、今回の滞在ではオスしか観察できなかったのは心残りだ。
どんどん明るくなってきた。そろそろ朝食の時間だ。
6時からの朝食はバイキング形式だった。しっかり食べて、6時半には宿を出る。天気が悪ければ黒部ダム、良ければ雄山と思っていたので、雄山に登ることにしたのだ。一ノ越経由でまっすぐ登る、比較的簡易なコースだ。
快晴。めちゃくちゃ眩しいので、サングラスが必須である。
一ノ越まではチェーンスパイクを履いて、雪原を竹竿と踏み跡を頼りに歩く。緩やかな登りだが、それなりの傾斜をトラバースする。朝の雪はまだ固く、チェーンスパイクでも滑るようなことはまったくなかったのだが、バランスを崩して谷側に滑り落ちたらどうしようかと不安にはなる。斜面は見ないように、足元だけ見て進む。なぜ高い所がそれほど得意でもないのに山に登るのかは自分でも不思議である。
来し方を振り返る。ダウンを中に着込んで出てきたが、どんどん暑くなってきた。
一ノ越の手前からすっかり雪は無くなるので、チェーンスパイクを外してザックにしまう。
ここからはひたすらガレ場を登る。風が強く、手袋をし直し、身を低くしながら黙々と登る。
室堂方面の眺望はもちろんずっと素晴らしい。大日岳の方が見渡せる。しかし風が強く、写真を撮るたびにスマホを落とすのではないかと震える。登山道は案内がしっかりされており、登り道を示す赤矢印に従い葛折りで高度をあげる。
8時すぎには三角点に到着。山頂では嘘のように風が弱い。アルプスの山々が一気に目に飛び込んでくる。絶景だ。
とはいえここは山頂ではない。鳥居をくぐった先の社が山頂である。しかし山際に張り出す階段が恐ろしく、途中で諦めてしまった。なぜ高い所がそれほど得意でもないのに山に登るのか。鳥居で無事を祈念して引き返す。
それにしてもすごいパノラマだ。遠くには微かに富士山の頭ものぞいている。見下ろせば御前沢氷河も広がる。頭上には何機もの飛行機雲が直線を描いており、日本海側を通る飛行機の多くがここを通過するのだと教えてくれた。
さて、休憩もそこそこに下山を始める。一ノ越までは石を崩さないようにそろりそろりといく。その後はまたチェーンスパイクをつけ、雪渓を下っていく。雪質は朝とは打って変わってサラサラ。すすすと滑るように降ることもできた。とは言え今度は登る人とすれ違わなければならず、斜面側に登って避けるなど、足元への注意は変わらない。9:30ごろにはホテル立山に着で、下山完了。
一度みくりが池温泉まで戻り、買っていなかったステンレスマグカップを買う。みくりが池色・朝焼け色・夕焼け色の3種があり、悩んでみくりが池色にする。ついでにソフトクリームも食べて一息入れる。
早めに下山できたので、黒部まで行くことも考えたが、海外からの団体客などがすでにたくさんいるようで、室堂に戻るのに時間を要しそうだ。まっすぐ立山まで降りることに決めた。
まずは立山自然保護センターでライチョウ目撃報告をしてライチョウシールをゲット。
立山行きのバスも臨時便が出ていたので、思ったより早い時間に降りれそうだ。今日は晴れなので、バス内の解説通りの景色も見渡せる。滝を楽しみにしていたものの、木々が多くなってきたところで寝落ち。その後のケーブルカーにも順調に接続し、あっという間に立山まで降りてきた。
立山からの電車は少し時間を空けることにして、立山カルデラ砂防博物館に寄る。地質の展示も見たいので有料チケットを買う。すると映像シアターも観れるということで、いそいそと向かうと客は自分一人。暴れ川こと常願寺川の治水・砂防の歴史を、大画面独り占めで観る。このカルデラというのがどえらい土砂災害の元凶であり、その対応のためにとんでもない規模の土木工事をほとんど人手でやってのけた当時の映像に驚かされる。
霊山としての立山の地図も興味深い。確かに雄山までの道のりにはたくさんのお堂があったななど、自分の歩いた道のりとリンクしていく。
立山から富山に戻る電車へ。今日は山並みも水田も見渡せる。線路沿いには、水面に映る富山電鉄を撮影しようというカメラマンがたくさんいた。
富山駅では、何はともあれ前日に食べ損ねたブラックラーメンを食べなければならない。駅中の『西町大喜』へ向かう。迷わずライスセット。麺は硬めでわしわし食べる太麺で、味付けもそうだが本当におかずといった立ち振る舞いだった。チャーシューが目一杯入っているのも嬉しい。もっとコショウが強いのかとも思っていたが、スパイス感はマイルドで食べやすい。レンゲがつかず最初は戸惑ったが、どうやらそういうものらしい。
お土産を物色し、もう少し食べようと『氷見キトキト寿司』へ。かさご、かわはぎ、太刀魚、さわら、八目、富山5貫と、富山湾らしいものだけ食べる。どれも身が締まって美味しい。金ピカの皿ばかりで出てくるので勝手にウキウキする。
この日のホテルは歓楽街の方なのでしばらく歩いて向かう。チェックインして荷物を置き、スーパーの大阪屋ショップへ。カマスが干物以外の姿でたんまり置かれており感動。カマスの刺身と、鯵のたたきを買う。鯵のたたきは酢味噌でやるのだな。小鰯の揚げたのも購入。カップ酒で立山も入手。
ホテルに戻り、ひとっ風呂浴びて、荷物整理して一服。部屋の窓が西向きなので、暖かくて気持ち良い。少し眠って、いよいよ日が暮れてきたところで晩酌。金沢のIPAで小鰯を、日本酒で刺身を食べる。富山はいいところだなあとしみじみして、2日目の夜はふけていくのであった。