黒豆海苔巻

主に北海道で散歩してるブログ

新潟の山で踊る

 丘珠空港に今年就航したトキエアで新潟に向かった。出発空港として丘珠を使ったのは初めてで、カウンターもこんな小規模なのかと少し驚いた。札幌黄を使った丘珠拉麺を食べながら外を見ているとプロペラ機ばかり。新潟行きの飛行機もやはりプロペラ機で、後部からタラップで乗り込むのは初めてでワクワクする。

 飛行機はつつがなく飛び立った。石狩湾をぐるりと回って札幌上空から噴火湾に抜けていくルートは新鮮で楽しい。手稲プールで多くの人が泳いでいるのも良く見える。機内で配られた元祖柿の種を齧りながら、今この辺りかなと景色を眺めて過ごす。

 14時前には新潟空港に到着。ムワッとして、やはり空気が違う。ともかくまずはレンタカーを借り、関越自動車道を南魚沼まで走る。少し雲は厚いものの天気はなんとかなりそうだ。

 本当は青木酒造に寄って、雪男に関するあれやこれやを買おうと目論んでいたのだが、途中で渋滞に捕まるなどし、閉店時間後の到着となってしまった。そこで近くにある金沢屋に行ってみると、いろいろ置いてあるではないか。新潟限定販売の雪男や、雪男グッズをしこたま買って満足である。それにしても気になる日本酒がたくさんある。新潟限定に後ろ髪を引かれながら車を走らせる。

 道の駅南魚沼で魚沼産コシヒカリを補給。味噌というのがいいよな〜。

 おにぎり1個だけとはいかないので、中野屋塩沢店で天ざる。いわゆるへぎそばと同じくふのりを繋ぎに使ったそばで、しっかりとしたコシがある。天ぷらはゴーヤやズッキーニといった夏野菜がめちゃくちゃジューシーで美味しい。

 時間が中途半端だったのでお客さんも少なく、魚野川を見晴らす窓際の小上がりを贅沢に占拠した。ちょうど鮎の遊漁期間で、おとりを売っているのがこの季節らしい。

 

 さて、この日の最終目的地は、苗場スキー場で開かれている音楽フェス・FUJI ROCK FESTIVAL '24である。越後湯沢から峠を登り、入口から徒歩15分ほど離れた駐車場(シカ駐車場)に車を置く。写真でしか見たことないようなフジロッカー感ある人々が溢れるなか、初フジロックのペーペーとして歩くことになんだか緊張しつつ、ところどころのキッチンカーにかかっている値段に平静なふりをして入口へと歩みを進める。今回は金曜18時以降から朝まで滞在できるナイト券を購入していた。引換券とバンドを交換し、いざ入場だ。

 遠くからの朧げな重低音を聴き、また入場ゲートにほど近いメインステージ・グリーンステージを目にして、ようやく、いよいよきたなという気持ちになってきた。

 今回フジロックに来たのは、The Killersのステージを見るためだった。この金曜日のヘッドライナーは、本来であればSZAが務めるはずであった。それが5月28日に急遽キャンセルが決定。どうなるかと思っていたら、6月14日には代打でThe Killersが登場すると決まったのだ。

 キ、キラーズ…!と会社帰りの電車で震えながらネットニュースを見たその日のうちに、奥さんに相談。後悔するくらいなら行けばいいのではと今年一番くらいのありがたい言葉をいただき、早速諸々の手配を進める。ところがこんな時期では手頃な宿泊先は周辺にもう残っていない。キャンプするような装備やスキルはなく最初から選択肢外。東京直行の夜行バスとかいろいろ考えた末、新潟入りし、その夜は車中泊でなんとかしようと決めた。決めたからには手配はスムーズに進み、飛行機、レンタカー、駐車券、ナイト券と一晩で注文を終えた。

 The Killersがデビューしたのは2004年。そのころはThe 〜s系のバンドが蔓延していて、ラジオで何度もかかっていたデビュー曲「Somebody Told Me」が初めての出会いだった。ちゃんとハマったのは、3rdアルバムからのシングル「Human」を聴いた時だった。当時ヘヴィメタルやハードロックばかり聴いていたのになぜハマったのかわからないが、キャッチーな歌メロはBURRN!読者にも刺さったのであろう。ここからThe Killersを遡って聴き、さらにはこれをきっかけにインディーロックも好んで聴くようになり、好みの音楽の幅を増やす足がかりにもなったのだ。その中でもThe Killersだけは追い続け、5th『Wonderful Wonderful』の内容におやっとなったりもしたが、ずっとファンで居続けた。 

 次第に、どうやらこのバンドはライブがすごいことがわかってきた。特に海外フェスの動画をみると、大観衆!大合唱!である。いつかはこれに参加してみたいと思っていたのに、2018年の日本武道館公演はド平日で諦めたことはずっと後悔していた。以来、日本での人気がイマイチなのかライブが開催されることはなかった。そんな中で久々の来日、しかもフェスのヘッドライナーというからには、見逃さない手はない。

 とはいえ21時半のスタートまで時間はある。この時間はファンキーなジャズバンド・GHOST-NOTEを観ようと思っていたので、少し奥まったフィールドオブヘブンまで歩く。人は多いがしっかり交通整理されていて迷うこともなく、素晴らしい運営だな〜と思わされる。鬱蒼とした道も、電飾で煌びやかに飾り付けられており、目を飽きさせない。

 少しお高めのビールを買って、端っこに加わる。ドラムとパーカッションの2人が引っ張るグルーヴィーな音圧に自然と体が動く。ボーカルがコミカルな動きで会場を煽る。それを眺めて、揺れながらゆっくりビールを飲む。会場後ろに吊られたミラーボールが煌びやかな光を投げかける。なんていい時間なんだ。

 早くも満足しかけたが、GHOST-NOTEが終わり次第そそくさとグリーンステージに戻る。ちょうどサブヘッドライナーのAwichが終わり観客の入れ替えのところで、するりと前の方に陣取った。まだ開演まで1時間くらいあるけど。

 The Killersの日本公演は、ドタキャンやらキャンセルやら会場変更やらの歴史があり、今日も本当にバンドは現れるのか…と内心ヒヤヒヤしていた部分はあった。スクリーンにこうして名前が出て、ステージのセッティングが進むにつれ、ようやく安心感が出てきた。

 暗転し、いよいよバンドが登場。白ジャケットのボーカル・ブランドンが「こんばんわ。ラスベガスからきたファビュラスなバンド、キラーズです(意訳)」と挨拶して始まったのが「Somebody Told Me」。のっけからBreakin' my back just to know your name〜と大合唱が起こったのにはびっくりした。日本にこれだけThe Killersを待っていた人がいたと思うと感慨深かったし、嬉しかった。

 ライブは素晴らしいの一言だった。「前にフジロックに来たのは20年前だな〜。20年!でもロックンロールショーをみるのに最適なのはここだぜ〜(意訳)」と言ってくれた通りの夜だった。1stアルバムから20周年として初期の曲が多めのセットリストも盛り上がりを作った要因かもしれないけど、この日を夢見てきた僕たちが作り上げた空気でもあったと信じたい。「When We Were Young」の火の粉の滝、「Shot At The Night」でのウェーブ、「Spaceman」のイントロ大合唱にEverybody look downでの指差し、「For Reasons Unknown」でステージに上げられたワタル・フロム・トーキョーの最高にパワフルなドラム、We can't wait till tomorrowの合唱で繋ぐ「Runaways」と「Read My Mind」、紙吹雪と紙テープまみれになりながら繰り返し叫ぶI got soul but I'm not a soldier、そしてWe are the…killers!の掛け声、さらには「The Man」の挑発ポージングと、The Killersで体感したかったことのほぼ全てが波のように押し寄せる。アンコール2曲目がついに「Human」でボルテージが上がり熱唱、最後は50/50バージョンの「Mr. Brightside」でこれまた大熱唱。桜の花びら型の紙吹雪が舞い、またもややけくそのようにI got soul but I'm not a soldierを繰り返し、ついに大団円を迎えた。

 夢のように終わってしまった。もっとジーンと感慨深くなったりするかな、と思っていたが、浴びせかけるエンターテイメントがそれを許さず、ずっと気持ちを跳ね上げられ続けるような感覚だった。ありがとうThe Killers。また来てくれ。

 最初は電気グルーヴを観て終わろうかと思っていたけど、この余韻のまま終わりたくなり、そのまま退場。単独公演を観に来たかのような形になりフェスとして場を用意してくれた方々には申し訳ない。だけど本当に来てよかったよ。ありがとう。