札幌芸術の森にテオ・ヤンセン展を観に行きました。なにはともあれ、こいつを観てくれ…。
この、海風を動力にしてうごめく奇妙な存在・ストランドビースト(浜辺の生命体)を作り出しているのが、オランダ人のテオ・ヤンセンです。
そんなストランドビーストが12体も集まったというなら行かない手はありません。かつて「大人の科学マガジン」でミニビーストを作った楽しさたるや…。ついに実物にお目にかかることができるということで、ワクワクが止まりません。
大きいものから小さいものまで、バリエーション豊かなストランドビーストが迎え入れてくれます。ああ、本物だ…。
ストランドビーストの特徴的な足の動きを生み出すのは、長さの比率を示す13の「ホーリーナンバー」で形作られた部品です。なめらかな軌跡をたどるように動くことがよくわかります。
ビーストの骨格は市販の塩ビ管でできています。ありふれたものらしいのですが、テオ・ヤンセンはこの色が気に入り、生産中止と聞くと50km分くらい買い占めたそうです。
パーツを繋ぐのはなんと結束バンド。ビニールテープを貼り合わせて羽を作るなど、身近な材料で構成されているのがよくわかります。
そうした身近なものだけで様々な機能を生み出す工夫が随所に見られます。砂浜をスムーズに移動するための車輪も塩ビ管を組み合わせて作られています。
特殊パーツ大集合コーナー。塩ビ管をまとめるのにも色々な方法を使っているのがわかりおもしろい。ペットボトルは圧縮空気をためるためのものです。
パーツをまとめ上げ、動きの基本となるのがこのクランク構造です。よく見ると歪みがたくさんあります。驚くことに、テオ・ヤンセンは念密に設計して作るというより、工芸品のように手仕事でビーストを作っていたようです。ストランドビーストの動きはなぜ生命のように見えるのか、というテーマに対して議論されるおもしろいパネルもありましたが、私にはこうした構造の曖昧さ、ゆるさにその秘密があるように思われました。
生命のように見える理由に「冗長性」が挙げられているのも興味深かったです。上の写真のアニマリス・オムニア・セグンダ(幅12m!)は、あまりに強風が吹くときだけ作動するハンマーを頭に備えており、自身で砂浜に杭を打ち込んで暴走しないように停止します。また、腹からたれ下げたチューブが水に浸ると圧縮空気の流れが変わり、後退して水を避けるものもあります。そうした判断をするところも生命らしさかもしれません。
会場では、ストランドビーストが実際に歩く姿を見ることができます。このアニマリス・プラウデンス・ヴェーラ(幅9m!高さ6m!)も大迫力で歩きます。
ストランドビーストの製作は1990年ごろから始まりました。様々な形態を経て、生命の系統樹のように分岐しながら機能を獲得し、現在の姿になっています。直近はプラハム期と呼ばれるタームに入っているようで、キャタピラのような構造で動くストランドビーストが作られています。その動きはイモムシがギャロップしているみたいで、歩くストランドビーストとは全く違ったものとなっています。
一緒に散歩を楽しめるアニマリス・カリブス。ようやく覚えられそうな名前となりました。
テオ・ヤンセンにとって、動かなくなったストランドビーストは「化石」だといいます。中庭に吊り下げられたアニマリス・ペルシピエーレ・エクセルサスは、まるで恐竜の骨格標本のようです。そんな化石を、エアコンプレッサーでひとときだけ甦らせる。お盆の行事みたいだなと思うほど、不思議なことにいつの間にやらストランドビーストに生命を強く感じたのでした。